抗酸化物質で不妊が改善?肥満/糖尿病患者向けーミトコンドリア妊活

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抗酸化物質で不妊が改善?肥満/糖尿病患者向けーミトコンドリア妊活

肥満や糖尿病による代謝障害は、女性の不妊症における原因の一つです。肥満や糖尿病患者の女性が体外受精治療を行っても、胚発生率が低かったり、妊娠率が低くなってしまいます(※1)。
今回紹介する論文(Mitochondria-targeted therapy rescues development and quality of embryos derived from oocytes matured under oxidative stress conditions: a bovine in vitro model)では、その治療のために、ミトキノンという抗酸化物質を利用することで胚発生率の向上に成功したことを示しています。

なぜ肥満/糖尿病になると不妊症になるのか?

なぜ肥満や糖尿病になると不妊症になるのでしょうか?
肥満や糖尿病は代謝性の疾患です。これらの患者の女性の卵胞液(卵子が育つ液)には遊離脂肪酸の濃度が上昇することが知られています(※2)。ヒトの卵胞液における遊離脂肪酸の濃度の増加は、胚の品質の低下や妊娠率の低下を引き起こします(※3)。

また、肥満は発生率の低下だけでなく、胎子の神経発達異常を引き起こす可能性も報告されています(※4

ウシの体外受精モデルを利用することで、卵胞液における遊離脂肪酸濃度の増加は、卵子に対して酸化ストレスを与え、ミトコンドリアの機能障害を引き起こすことが分かりました。卵子に酸化ストレスが加わると、卵子がアポトーシス(細胞死)を引き起こしたりなどしてしまい、低品質の胚になってしまいます。

これらのことから、肥満や糖尿病になると、卵胞液に遊離脂肪酸の濃度が上昇し、卵子に酸化ストレスが与えられることで不妊に繋がることが分かりました。

今回の論文では、コエンザイムQ10の機能を増加させるミトキノンという抗酸化物質を利用して胚発生率を向上させることに成功しました。

コエンザイムQ10について気になる方はコエンザイムQ10は妊活に関係する?-ミトコンドリア妊活を参考にしてください。

ミトキノン添加で胚発生率向上

論文のデザインをまず説明します。論文ではウシの体外成熟/体外受精/体外培養モデル(IVMFC)を利用しています。
体外成熟や体外培養を行う際、シャーレの中に培地という卵子や受精卵が育つための液を加える必要があります。今回は卵胞液での遊離脂肪酸の模すために体外成熟の培地にパルミチン酸という脂肪酸を加えることで、卵胞液での遊離脂肪酸モデルを作製しました。

パルミチン酸を加えることを培地に加えることで胚の発生率は低下しました。そしてその後ミトキノンを加えた培地に移すことで胚発生率は通常状態まで戻ることが出来ました。

パルミチン酸曝露に対するミトキノンの影響
※論文より引用

表の一番左SCONT>>SCONTは培地に何も加えていない区。真ん中のHPA>>SCONTは培地にパルミチン酸を加えた区。右のHPA>>MitoQは培地にHPAを加えたのち、ミトキノンを含む培地に移した区です。

表のD7 Blastocystsというところに着目してください。D7 Blastocystsとは体外受精7日後に胚盤胞期胚にまで発生した胚の割合を示しています。
ヒトでも胚盤胞期胚にまで達することで子宮に移植することが出来るため、胚盤胞期胚の割合が向上することが胚発生率の1つの指針となります。

通常の区では発生率19.2%ですが、パルミチン酸を加えると発生率が14.2%にまで減少しています。しかし、パルミチン酸添加培地の後に、ミトキノン添加培地に移すことで発生率は20.0%まで向上することが出来ました。

胚盤胞期胚率の違いを示す代表的な図
※論文より引用

この図は実際のウシ胚になります。黒ずんでいるものは死んだ胚になります。通常の培地区(SCONT>>SCONT)とパルミチン酸添加後ミトキノン添加培地に移した区(HPA>>MitoQ)では胚盤胞期胚にまで発生しているものがいくつも見られますが、パルミチン酸添加培地(HPA>>SCONT)では胚盤胞期胚にまで発生したものは3個しかありませんでした。

このようにミトキノンという抗酸化物質を培地に加えることで、肥満/糖尿病患者により卵胞液の遊離脂肪酸の濃度が向上している方でも、発生率の向上が示唆されました。

ミトキノン添加で胚の品質も向上

アポトーシスの減少

卵胞液の遊離脂肪酸の濃度が上昇すると、アポトーシス(細胞死)が生じると言われています。普通の胚ではアポトーシスは生じないため、アポトーシスの生じている胚は低品質な胚とみなされることがあります。

パルミチン酸曝露後のミトキノン添加によるアポトーシスへの影響
※論文より引用

卵胞液中の遊離脂肪酸の濃度が向上を模したパルミチン酸添加培地(HPA>>SCONT)ではICM(将来胎児になる細胞群)でアポトーシス(緑や白色)が増加していることが分かります。通常の培地区(SCONT>>SCONT)やミトキノン添加培地(SCONT>>MitoQ)ではほとんどアポトーシスは見られません。
パルミチン酸添加後ミトキノン添加培地に移した区(HPA>>MitoQ)ではアポトーシスが再び減少していることが分かります。

抗酸化物質(ミトキノン)添加培地に移すことで、遊離脂肪酸によるアポトーシスを抑えられる可能性が示唆されました。

ミトコンドリア活性及びROSへの影響

胚におけるミトコンドリアの役割は、大変大きいです。ミトコンドリアの機能が減少することで不妊に繋がるとも言われています。
そこで肥満/糖尿病患者に対し、抗酸化物質(ミトキノン)を加えることで、ミトコンドリアの機能が向上するのかも確かめました。併せて活性酸素種(ROS)への影響も調べました。

パルミチン酸曝露後のミトキノン添加によるミトコンドリア活性状態およびROSへの影響
※論文改編

Aが胚のミトコンドリアの活性状態を調べたもので、Bが胚の活性酸素種(ROS)の濃度を調べたものです。
卵胞液中の遊離脂肪酸の濃度が向上を模したパルミチン酸添加培地(HPA>>SCONT)ではミトコンドリアの活性状態が減少し、卵子全体における活性酸素種(ROS)の濃度が増加しました。活性酸素種の濃度が増加すると、酸化ストレスが向上し不妊に繋がります。
パルミチン酸添加後ミトキノン添加培地に移した区(HPA>>MitoQ)ではミトコンドリアの活性状態が向上し(青矢印)、活性酸素種(ROS)の濃度が減少しました(赤矢印)。

このように抗酸化物質(ミトキノン)添加培地に移すことで、胚のミトコンドリアのの機能を向上させ、活性酸素種(ROS)の濃度を減少させることが分かりました。

まとめと展望

今回紹介した論文では、肥満/糖尿病患者を模したウシの体外モデルにおいて、遊離脂肪酸を加えると減少してしまう胚発生率を、抗酸化物質(ミトキノン)を加えることで向上できることが分かりました。さらに、遊離脂肪酸によって生じる胚の品質低下も抗酸化物質によって改善出来ることが分かりました。

今回のことから肥満/糖尿病患者で卵胞液の遊離脂肪酸の濃度が高くても、体外受精の際、培地に抗酸化物質を加えることで、胚発生率の向上及び、胚の品質低下の改善を図ることのできる可能性が示唆されました。

参考論文

※2論文タイトル;Associations between free fatty acids, cumulus oocyte complex morphology and ovarian function during in vitro fertilization
著者;Jungheim ES et al
雑誌名;Fertil Steril. (2011)
※3論文タイトル;The role of fatty acids on ICSI outcomes: a prospective cohort study
著者;Mirabi P et al
雑誌名;Lipids Health Dis. (2017)
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