水素を産生するシリコン製剤により腎臓病の悪化を抑えるー大阪大学研究
2019年大阪大学の研究グループは体内で24時間水素を産生するシリコン製剤を開発しました。
水素は体内で抗酸化物質として働き、老化などに働く酸化物質を抑制する効果があります。
本研究では、この水素を産生するシリコン製剤の腎臓病への効果を確認しました。
シリコン製剤とは?
シリコンとは原子番号14の元素であり、水と反応し水素を発生させるという性質を持っています。
2019年の研究では、このシリコン製剤を利用して生体内において水素を産生することにより、ペットにおける酸化ストレス由来のアトピー性皮膚炎や糖尿病を感知することに成功しています。
(詳しくは酸化ストレスを抑える?体内で水素を発生させるシリコン材料の開発。を参照してください。)
この研究では、シリコン製剤を人に応用することを目的として研究しました。
着目した病気は、酸化ストレスが由来となる慢性腎臓病とパーキンソン病です。
慢性腎臓病の悪化を抑える
慢性腎臓病とは
慢性腎臓病はミトコンドリア由来の酸化ストレスによって引き起こされることが知られており、現在もまだ根本的な治療法のない難治性の疾患です。
慢性腎臓病の患者は日本だけで1,300万人もいます。
重症化すれば透析治療が必要となり、透析患者は34万人に達し、今後益々患者数が増加する可能性があります。
透析治療には1人あたり年間約600万円を要しており、34万人の透析患者に要する治療費は、年間約2兆円と莫大です。
腎臓病ラットにシリコン製剤を食べさせた
この研究では腎臓を摘出した慢性腎不全ラットを作製しました。
腎不全モデルラットの腎臓は、徐々に腎不全が進行していきます。
具体的には、尿細管の拡張や炎症細胞の浸潤と線維化、糸球体硬化が生じました(図1左)。
一方、シリコン製剤含有食を与えていたラットの腎臓では腎不全の発症は抑制されていました(図1右)。
図1 シリコン製剤の慢性腎臓病への影響(※1より引用)
また、腎臓の機能を定量化する血清クレアチニン値や尿蛋白の量も、シリコン製剤を給餌したラットでは上昇が抑制され、腎機能が良好に保持されていることがわかりました。
加えてシリコン製剤を腎不全ラットに給餌することにより、腎臓におけるアポトーシスや炎症反応を抑えることにも成功しています。
パーキンソン病の悪化を抑える
パーキンソン病は、運動を行う脳の一部に異常が生じることで発症する病気です。
パーキンソン病は、進行性の病気で、症状が進むと、歩けなくなったり、認知機能の低下がみられたりすることがあります。
パーキンソン病は厚生労働省が指定する難病の一つでり、日本では1000人に1人がこの病気にかかると考えられています。
パーキンソン病は60歳以上では100人に1人と、発症率が高くなり、今後高齢化が進むにつれて、患者の数は増えると推定されています。
パーキンソン病は、神経伝達物質ドーパミンが不足することで生じる病気であり、未だに治療法は見つかっていません。
パーキンソン病マウスにシリコン製剤を食べさせた
6-OHDAを注入することで、パーキンソン病を誘発したマウスを作製しました。
6-OHDAを注入したマウスの神経細胞においては、ドーパミンのシグナルが減少していることが分かります(図2上白矢印)。
しかし、6-OHDAを注入後、シリコン製剤を給餌したマウスは、ドーパミンのシグナルの減少が抑制されました(図2下白矢印)。
図2 シリコン製剤のパーキンソン病への影響(ドーパミンシグナル)(※2より引用)
加えて、パーキンソン病において生じる運動性への評価を行いました。
ロータロッド試験と呼ばれる、回転する丸太の上で、マウスがどれだけ滞在できるかという試験を行いました。
通常のマウスにおいては、シリコン製剤給餌の有無にかかわらずロータロッド試験の結果は170秒ほどの滞在となりました。
しかし、6-OHDAを注入すると、60秒ほどしか滞在することができなくなりました。
しかしながら、6-OHDAを注入したマウスにシリコン製剤を給餌すると173秒ほどと滞在時間が通常のマウスと変わらないほどの時間まで戻り、運動性が改善されたことが分かります(図3)。
図3 シリコン製剤のパーキンソン病への影響(運動性)(※2より引用)
以上の結果から、シリコン製剤の給餌はパーキンソン病の悪化を抑制する可能性が示唆されました。
シリコン製剤の今後の展望とまとめ
今回シリコン製剤を摂取させることで、ヒトの今後は難治性疾患であるパーキンソン病や、多くの患者がいる慢性腎臓病の悪化を抑制する可能性が示唆されました。
シリコン製剤は、体内で吸収されないだけでなく、食品としても無害であることが分かっています。
今後、ヒトに対してシリコン製剤による水素産生の治療が、パーキンソン病や慢性腎臓病に対して効果が生じるか気になるところです。
参考論文等
著者;Yuki Kobayashi et al
雑誌名;Scientific reports (2020)
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