ミトコンドリアを注入するAUGMENT療法は本当に効果があるのか?
AUGMENT療法とは、卵子前駆細胞と呼ばれる細胞からミトコンドリアを単離し、老化卵子へと導入することで、卵子の機能を向上させ、発生率向上、妊娠率増加が生じる
といわれている最先端の不妊治療技術になります。
(詳しくはミトコンドリアを注入する?不妊治療技術「AUGMENT」とは!?を参考にしてください)
2015年にOvaScienceが発表したこの治療法は、日本国内においても、大きな反響がありました。
日本国内でも2017年以降、治療が開始されるとのニュースが報じられ、様々なメディアが、このセンセーショナルな治療法について報道しています。(※1,2)
とはいえ、本当に効果があるのでしょうか?
今回は、そんな疑問に答えた1つの論文を紹介したいと思います。
尚、この記事は、「Autologous mitochondrial transfer as a complementary technique to intracytoplasmic sperm injection to improve embryo quality in patients undergoing in vitro fertilization-a randomized pilot study」を和訳したものとなっています。
実験方法
スペイン、バレンシアの民間不妊治療センターであるValencian Institute of Infertility (IVI-RMA)において、不妊患者の方を対象に実験が組まれました。
42歳以下の59人の治療中の女性を対象に、採卵が行われ、AUGMENT療法を行ったグループと行わなかったグループに分けて評価を行いました。
(実験中に自然妊娠などが生じたため、実際は56人を対象にした)
女性から503個のMII卵母細胞が採卵され、253個をAUGMENT療法、250個をICSI(体外受精)に供しました。
AUGMENT療法は受精率を改善しない
まず、AUGMENT療法による受精率への影響を確認したところ、以下のような結果が得られました。
※3より引用
250個のICSIを行った卵母細胞の内177が受精しました(68.7%±29.1)。
一方、AUGMENT療法を行った253の卵母細胞の内、受精したものは162個でした(62.2%±30.0)。
このことから、AUGMENT療法は受精率を改善しないことが分かります。
AUGMENT療法は発生率を減少させる
次にAUGMENT療法による発生率への影響を確認しました。
受精した胚(zygote)を母数にしたときの胚盤胞期胚までの発生率は次のようになりました。
※3より引用(p<0.01)
ICSIを行った胚は177の内、74が胚盤胞期胚まで成長した(41.1±36.9)、一方、AUGMENT療法を行った胚は162の内、45しか胚盤胞期胚まで成長しませんでした(23.3±32.0)。
結果として、AUGMENT療法を行うと、有意に胚盤胞期胚までの発生率が減少することが分かりました。
発生した胚盤胞期胚の遺伝子をPGS(着床前スクリーニング)により検査したところ、ICSI行った胚盤胞期胚74の内、37が正倍数性(63.8±44.1)であり、AUGMENT療法を行った胚盤胞期胚45の内、19が正倍数性(43.8 ± 41.7)でした。
正倍数性に関しては、AUGMENT療法を行っても変化はないことが分かりました。
AUGMENT療法は妊娠率を改善しない
PGSにより正倍数性と判断された胚を30人の患者に胚移植しました。
12人にはICSIの胚を、8人にはAUGMENT療法を行った胚を、残りの10人には、ICSI、AUGMENT療法の胚のどちらもを移植しました。
移植後の妊娠の結果は以下の通りです。
※より引用
ICSIの胚の妊娠率は10/24(41.7%)であり、AUGMENT療法を行った胚の妊娠率は7/17(41.2%)と、有意な差はありませんでした。
まとめ
以上の結果より、AUGMENT療法を行っても、受精率、妊娠率は改善されないどころか、発生率に関しては、減少してしまうことが分かりました。
現在、国内では、HORACグランフロント大阪クリニックのみで治療が行ことができるようになっています。
今一度、この記事を読んで、治療を行うか検討してみてください。
参考論文など
著者;Elena Labarta
雑誌名;Fertility and Sterility(2019)
コメント