卵子前駆細胞って何?不妊治療技術AUGMENTへの応用
AUGMENT療法とは卵子前駆細胞のミトコンドリアを老化卵子に注入することで発生率を向上させる不妊治療技術です。では注入する卵子前駆細胞とは一体どんなものなのでしょうか?見つかった論文について紹介します。
そもそもAUGMENT療法とは?
Autologous Germline Mitochondrial Energy Transfer:「自家生殖細胞ミトコンドリアエネルギー移動」のこと。
ICSIを行う際、自家生殖細胞(卵子前駆細胞)由来のミトコンドリアを精子と共にインジェクションする。
アメリカの不妊治療の会社であるOva Scienceが開発した新しい不妊治療技術。日本では大阪のHORACグランフロント大阪クリニックのみが行っている。
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卵子前駆細胞とは?
卵子には無限に細胞分裂を続けることのできる「幹細胞」はないと言われていました。しかし、2004年以降無限に細胞分裂を続けられる細胞が卵巣から単離されました。この細胞はFGSC(Female Germline Stem Cells)と呼ばれていました。この細胞は現在ではOSC(Oognoal Stem Cells)-卵子前駆細胞/卵子幹細胞と呼ばれています。
マウスから単離した卵子前駆細胞にGFPの蛍光を付けてマウスの卵巣に導入すると、GFPの蛍光をしている卵母細胞が作られました。そのため、卵子前駆細胞には、卵母細胞形成能力があることが分かりました。
しかしながら、ヒトの卵子前駆細胞に卵母細胞形成能力があるのかどうかは分かっていませんでした。そこで、2012年に発表されたOocyte formation by mitotically-active germ cells purified from ovaries of reproductive age womenの論文においてヒトの卵子前駆細胞に卵母細胞形成能力があることが証明されました。
以下論文における実験について説明していきます。
卵子前駆細胞単離の方法を決めた
2012年以前は卵子前駆細胞の単離には免疫磁気細胞分離という方法が取られていました。
免疫磁気細胞分離は卵子前駆細胞の表面に発現しているDDX4を磁器ビーズ付きの抗体で抗原抗体反応させたのち、磁石により卵子前駆細胞を集めるという方法になります。
しかしこの方法だと、卵子や卵母細胞も一緒に集めてしまう結果となってしまいました。
そこで筆者たちはフローサイトメトリー(FACS)という別の方法で卵子前駆細胞を単離することにしました。
FACSは卵子前駆細胞の表面に発現しているDDX4を蛍光付きの抗体で抗原抗体反応させたのち、光により卵子前駆細胞を集めるという方法になります。
この方法により、卵子前駆細胞だけを回収することに成功しました。
図のように単離した細胞は、生殖細胞系列マーカー遺伝子を発現しているが、卵母細胞系列マーカー遺伝子は発現していないことが分かります。
そして単離したマウスのOSCにGFPを付けてマウスの卵巣に導入すると、GFP陽性の卵母細胞が形成され、胚盤胞期胚まで発生することが分かりました。
図のようにGFP蛍光を持っている卵母細胞が排卵され、胚盤胞期胚まで発生していることが分かります。
ヒトに応用
FACSを利用したプロトコルにより、ヒトの卵巣からも卵子前駆細胞を単離することに成功しました。
単離した細胞の遺伝子を調べたところ、生殖細胞で特異的に働く遺伝子が検出されたため、ヒトから卵子前駆細胞を単離できたことが分かりました。
この細胞にGFP蛍光を付け、免疫不全マウスに移植しました。
すると、免疫不全マウスから、GFP陽性の卵母細胞を検出することに成功しました。
マウスの卵巣からはGFP陽性の卵母細胞が検出されなかったことから、マウスに導入したヒトGFP卵子前駆細胞は、卵母細胞へと形成する能力を持っていたことが分かりました。
まとめ AUGMENT療法へ
今回の論文によって初めてヒトから単離した卵子前駆細胞に卵母細胞形成能力があることが分かりました。老化した卵子はミトコンドリアの異常が原因で不妊へと繋がってしまいます。
そこで、卵子よりもミトコンドリアが若いと考えられている卵子前駆細胞からミトコンドリアを抽出することで、老化した卵子を若返らせ、妊娠へと繋がるAUGMENT療法が開発されました。
参考論文
著者;Yvonne A. R. White
雑誌名;Nature Medicine (2012)
著者;Zou K et al
雑誌名;Nat.Cell .Biol (2009)
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