ミトコンドリアイブって何?ミトコンドリアが遺伝するメカニズムを説明
ミトコンドリイブとは何なのでしょうか?
ミトコンドリアは母親由来のものしか遺伝しません。
つまりあなたの持っているミトコンドリアは元々あなたのお母さんが持っていたもので、さらにはあなたのおばあさんが持っていたものになります。
ミトコンドリアイブ仮説とは、母性遺伝を遡っていけば一人の人類の共通の祖先(ミトコンドリアイブ)に到達し、ミトコンドリアイブから我々はミトコンドリアを受け継いだという仮説です。
ここではミトコンドリアが母性遺伝(母親のもののみが遺伝)する仕組みについて説明します。
精子のミトコンドリアは分解される
受精の際、精子からは子孫にDNAを受け継ぐための核(雄性前核)と精子のエネルギーを産生するためのミトコンドリアが卵子に持ち込まれます。
核は卵子由来の核と融合し、次世代にDNAが引き継がれていきます。
しかしながら、精子のミトコンドリアは卵子の中で分解されてしまいます。
上記の画像は受精卵の中で精子のミトコンドリアが分解されている様子を表しています。
矢印は受精卵のリソソーム(タンパク質を分解する細胞小器官)がミトコンドリアに近づき分解していることを示しています。
この精子のミトコンドリアが分解されるメカニズムにはユビキチンという現象が働いています。
ユビキチンとは?
生物の細胞内では、不必要な物質を除去するための仕組みが存在します。
分解機構の1つにユビキチン機構が存在します。
生体内で不必要になったタンパク質や合成ミスを起こしたタンパク質には、ユビキチンという小さなタンパク質がいくつも結合して、不必要なタンパク質を標識します。
標識されたタンパク質は、タンパク質を分解するプロテアソームやリソソームが認識し、分解を行います。
ちなみにユビキチンとプロテアソームを利用したユビキチン-プロテアソーム系はアーロン・チェハノバ教授、アブラム・ヘルシェコ教授、アーウィン・ローズ博士によって発見され、2004年にノーベル化学賞を受賞しています。
精子のタンパク質はユビキチンで標識されている
この画像はヒトの精子をユビキチンを認識するもので染色した画像になります。
ミトコンドリアが集まっている中片部が強く染まっていることが分かります。
精子形成の時点から、ミトコンドリアの内膜のタンパク質であるプロヒビチンがユビキチン標識を受けています。
この画像におけるA~Dは精子形成におけるミトコンドリア(赤)とユビキチン標識(緑)を示しています。Aが二次精母細胞、Bが円形精子細胞、Cが伸長精子細胞、Dが精子です。どの画像においても、ミトコンドリアとユビキチンが同じ部位で染色されていることから、精子形成の段階からミトコンドリアはユビキチン標識されていることが分かります。
このようにして精子のミトコンドリアはユビキチンによって標識されることで、卵子の中で分解されるため、子供には引き継がれないのです。
なぜ雄の体の中では精子は分解されないのか?
ではなぜ、ミトコンドリアがユビキチン標識されているにも拘らず、精子は雄の中で分解されないのでしょうか?
それはユビキチン標識を受けた精子のミトコンドリアが、ジスルフィド結合と呼ばれる架橋構造で、ユビキチン標識を隠してしまっているからです。
標識を隠された精子のミトコンドリアは、プロテアソームやリソソームによって認識されないため、分解を受けません。
受精後、卵子の中でジスルフィド結合が外されてしまうため、精子のミトコンドリアのユビキチン標識はプロテアソームやリソソームに認識されてしまい、分解されます。
結果として、精子のミトコンドリアは子供には受け継がれず、卵子のミトコンドリアのみが子供に受け継がれます。
以上の仕組みが、ミトコンドリアが母性遺伝するためのメカニズムとなります。
まとめ
ここでは精子のミトコンドリアが子孫に受け継がれず、ミトコンドリアが母性遺伝する仕組みについて説明しました。
精子のミトコンドリアが分解される理由は、精子のミトコンドリアがは精子が泳ぐためのエネルギーしか作れないことや、卵子のミトコンドリアに比べて異常が多いからと言われていますが、未だに原因ははっきりとしていません。
この記事でミトコンドリアが母性遺伝する仕組み、そしてミトコンドリアイブ説が唱えられる理由について理解を深めていただければ幸いです。
参考論文
著者;Peter Sutovsky et al
雑誌名;Biology of Reproduction (2000)