不妊治療における保険適用の回数上限は多い?少ない?イギリスを参考に考える。

不妊治療における保険適用の回数上限は多い?少ない?イギリスを参考に考える不妊治療

不妊治療における保険適用の回数上限は多い?少ない?イギリスを参考に考える

不妊治療が保険適用化することにより年齢制限、回数の上限が設けられることとなりそうです。

海外でも年齢制限や回数の上限はあるものの、本当に日本と全く同じなのでしょうか?
そこで、ここでは英国国立医療技術評価機構(イギリス保健省配下の執行型非政府部門公共機関の一つ)のガイドラインを参考に、日本との違いについて説明します。

日本の保険適用の年齢

日本ではこれまで不妊治療に関して助成金が貰えていました。

今回の保険適用に併せて助成対象が拡充され、厚労省HPによると現在では

女性の年齢が40歳未満の夫婦は1子ごとに6回まで助成金が貰える。
女性の年齢が40歳から43歳までの夫婦は1子ごとに3回まで助成金が貰える。
女性の年齢が43歳以上の場合助成金は貰えない。

となっています(変更前の内容など興味のある方はこちら)。

現在体外受精に関しての保険適用に関しての法案が準備中となっていますが、2021年8月7日に共同通信から発表されたニュースによると、体外受精に関しての保険適用に関しても現在の助成金と同じ条件で制限を行っていくと報道されました。
体外受精の保険適用制限へ 妻の年齢、回数に上限

そのため、恐らく今後も年齢や回数に上限が定められることとなると思われます。

イギリスの保険適用の年齢

一方、既に不妊治療が保険適用となっているイギリスではどうなのでしょうか?
今回は英国国立医療技術評価機構というイギリスの機関のガイドラインを参考にすると

40歳未満の女性は体外受精を3回無料で治療できる。
40~42歳の女性は体外受精を1回無料で治療できる。

と記されています。

無料という点を除けば、日本よりも治療回数の上限は少なくなっています(日本6回、イギリス3回)。
では、日本の方が保険適用される治療回数は多いということなのでしょうか?

しかし、実はここに大きな間違いが含まれています。

日本とイギリスの治療回数に関する大きな隔たり

日本の治療回数に関して

日本の場合、治療回数に関して1回の治療辺り○○円の助成金が貰えるとされています。
厚労省のHPには以下のような文章が記されています。

※凍結胚移植(採卵を伴わないもの)及び採卵したが卵が得られない等のため中止したものについては1回10万円

つまり、採卵して失敗した場合、通算回数に含まれてしまいます
さらには多くの胚盤胞期胚が凍結できたとしても、それぞれの凍結胚を移植する際も、通算回数に含まれてしまいます

イギリスの治療回数に関して

一方イギリスの場合は、採卵してから胚移植までをfull cycleとし、full cycleを3回まで無料としています。
(full cycle 定義;引用※1 This term is used to define a full IVF treatment, which should include 1 episode of ovarian stimulation and the transfer of any resultant fresh and frozen embryo(s).

embryo(s)と複数形になっていることから、full cycleには複数の胚移植が1回のcycleとして計算されることが推察されます。

つまり、複数の凍結胚移植に関しても、採卵回数辺りで計算されるため、たくさん凍結胚ができればそれだけ保険適用で移植できる数も増えます

また、イギリスでは採卵を中止した場合は通算回数に含まないことが明記されています。
(引用※1Healthcare providers should define a cancelled IVF cycle as one where an egg collection procedure is not undertaken. However, cancelled cycles due to low ovarian reserve should be taken into account when considering suitability for further IVF treatment.

自然周期法に関して

また、日本では、採卵に関して薬物を用いない自然周期法という採卵方法を用いているクリニックが多数存在します。
これは、OHSSなど予防のために必要なことですが、イギリスでは行わない方針となっています。

なぜなら、自然周期法で採取できる卵子数は1個に留まってしまうからです。

イギリスにおける体外受精の考え方としては、複数の卵子を薬物を用いて採卵し、体外受精を行った後、グレードの一番高い胚を移植することとしています。
(というのも体外受精を行ったとしても必ず胚盤胞期胚まで発達するとは限らないから)

日本における自然周期法では、1個しか採れなかった卵子が胚盤胞期胚まで成長しなかったとしても、通算回数に含まれてしまいます
(10個の卵子と、1個の卵子、どちらが胚盤胞期胚まで到達する数が多くなるかは考えるまでもありませんよね)

具体的に回数を考えてみる

41歳A子さんの場合(40歳を過ぎると胚移植の成功率は10%)

・採卵1回目(刺激法)→中止→1回目
・採卵2回目(刺激法)→採卵成功して10個の卵子が採卵できた。体外授精により8個の受精卵ができ、6個が胚盤胞期胚まで発生した。5個を胚凍結し、1個を新鮮胚移植したが、着床しなかった→2回目
・凍結胚移植(採卵1回目の凍結胚を利用)を行ったが分娩に至らず→3回目
・凍結胚移植(採卵1回目の凍結胚を利用)を行った→保険適用外

イギリスでは
・採卵1回目(刺激法)→中止→1回目
・採卵1回目(刺激法)→採卵成功して10個の卵子が採卵できた。体外授精により8個の受精卵ができ、6個が胚盤胞期胚まで発生した。5個を胚凍結し、1個を新鮮胚移植したが、着床しなかった→1回目
・凍結胚移植(採卵1回目の凍結胚を利用)を行ったが分娩に至らず→1回目
・凍結胚移植(採卵1回目の凍結胚を利用)を行った→1回目

極端な例となりますが、試行回数がどちらが多くなるのかは一目瞭然ではないでしょうか。

イギリスの体外受精の制限

無料で受けられるイギリスの体外受精の保険適用に制限はあるのでしょうか?
一応あります。

40歳未満の場合
・避妊具を使わない性交渉を 2 年間行って妊娠出来なかった又は
・12 周期の人工授精で妊娠出来なかった
(ただし、最初の検査において、妊娠するための治療法が体外受精しか無いと判断された場合は、直ちに体外受精の推奨が行われるべき)
40~42歳の場合
・避妊具を使わない性交渉を 2 年間行って妊娠出来なかった又は 12 周期の人工授精で妊娠出来なかった
・過去に体外受精を行ったことがない
・卵巣予備能の低下が指摘されない
・この年齢での体外受精及び妊娠の影響について説明を受けている
(ただし、最初の検査において、妊娠するための治療法が体外受精しか無いと判断された場合は、直ちに体外受精の推奨が行われるべき)

これらの基準をすべて満たさない場合体外受精は行えないみたいです。
また病院によってはBMIを基準に設けているところもあるみたいです。
このように、日本と比べてステップアップに時間がかかるからこそ、体外受精まで進んだ際は手厚い支援を受けられるのかもしれません。

まとめ

日本の場合イギリスと比べて治療回数は一見多いように見えました。

しかしながら、胚移植の回数を試行回数に入れる日本は、胚移植の回数を試行回数に加えないイギリスと異なり、試行回数は少なくなる可能性があります。

このように、実は日本が予定している保険適用回数は、イギリスと比べて極めて少なくなる可能性があります。

勿論女性の年齢が高くなるにつれて不妊治療の成功確率が著しく減少するため年齢制限が設けられることは仕方のないことだと思います。
しかし、なぜ、40歳未満の方の回数上限が6回で、43歳未満の方の回数上限が3回なのかなどについて理由は説明されていません。
(40歳以上では胚移植の成功率が10%前後となってしまうため、どう考えても保険適用の回数は足りていません

ちなみにイギリスの場合は、40歳未満で3回としているのは最も費用対効果が高いからと明記されています。
引用※2Most women typically see success rates of 20-35% per cycle, but the likelihood of getting pregnant decreases with each successive round, while the cost increases. The cumulative effect of three full cycles of IVF increases the chances of a successful pregnancy to 45-53%. This is why NICE has recommended 3 IVF cycles as it is both the most cost effective and clinically effective number for women under the age of 40.‐ほとんどの女性は1回のサイクル当たり25-30%の成功を示す。しかし、コストが増加するにもかかわらず、妊娠の可能性は周期を重ねるごとに減少していく。体外受精を3回full cycleで行うことにより妊娠成功確率は45-53%まで増加する。NICEが体外受精3サイクルを推奨するのは、これが40歳未満の女性にとって最も費用対効果が高く、臨床的にも有効な回数だからである。)

このように具体的な数字をもとにした回数の根拠が提示されることを、今後の厚労省に期待します。

もしこの文章を読んで、日本の不妊治療保険適用化の制限に関して少しでもおかしいと感じた方は、以下のフォームから厚労省に意見書を送っていただければ幸いです。
「国民の皆様の声」募集 送信フォーム

引用
※1Fertility problems: assessment and treatment
※2The importance of 3 full cycles of IVF

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