本当に大丈夫?高度不妊治療が出生後の子供に与える影響

論文紹介

本当に大丈夫?高度不妊治療が出生後の子供に与える影響

高度不妊治療は、通常では子供の産めない夫婦を出産へ繋げることのできる医療技術の一つです。

現在世界中で高度不妊医療(ART)によって生まれる子供の数は800万人以上に及びます。
しかし、体外受精や着床前診断など、受精卵を体外で扱うことは産まれてくる子供に悪影響を及ぼすことはないのでしょうか。
これまでのところ、高度生殖医療が子供に与える影響は未だにわかっていません。

そこで今回紹介する論文では胚移植(ET)、体外培養(IVC)、着床前診断のための割球生検(BB)が、出生後の胎子に与える影響を、マウスを用いて検証しました。

尚、この記事は「Perturbations of the hepatic proteome behind the onset of metabolic disorders in mouse offspring developed following embryo manipulation」を解説しています。

実験方法

今回の実験では、遺伝子が全く同じ系統のマウスを利用した(C57BL/6 という近交系マウス)。
そのため今回の実験により変化した影響は、全てARTにより生じる可能性が示唆されます。

ETは受精を確認したマウスからE3.5に回収した胚を、別のメスマウスへと胚移植しました。これにより、ETの影響のみを調べることができます。
IVCはE2.5に回収し体外培養を行った後ETを行いました。ETと比較することでIVCの影響のみを調べることができます。
BB(割球生検)とは着床前診断(PGD)の一種です。4-8細胞期の胚から一つの割球を取り出し遺伝子を検査することで着床前に胚の遺伝子を検査することができます。
今回は交配2日後に4‐8細胞期を回収し、BBを行った後、体外培養を行いETを行った。IVCと比較することでBBのみの影響を調べることができます。

産まれてきた胎子の体重やタンパク質発現を調べることで、高度生殖医療が子供に与える影響を調査しました。

高度不妊治療は体重増加を引き起こす


こちらは産まれてきた胎子の体重を計測したものです。
コントロール(in vivo)と比べてET、IVC、BBの胎子は、雌雄問わず出生後の体重が増加しました

さらに、BBオスにおけるインスリン抵抗性及び、BBメスにおける耐糖能障害及び中性脂肪の増加が観察された。

高度生殖医療は成人病のリスクを増加する

胎子の体重増加の結果をさらに検証するため、まずインターロイキン6のタンパク質の発現量を、ELSIAを用いて観察しました。
すると、ET、IVC、BB胎子においてインターロイキン6の発現量の減少が観察されました。
インターロイキン6の減少は代謝異常を引き起こし、肥満になることが過去の知見で明らかとなっています(V. Wallenius,2007)。

具体的には高度生殖医療を行った胎子ではインターロイキン6の減少により中性脂肪の分解が行いにくくなることで脂肪が蓄積し、体重が増えたと考えられます。

また、これらの胚操作は肝臓機能に関係するタンパク質に影響を与えていました(特にBBやIVCにおいて)。

まとめ

本研究の結果からARTは出生後の胎子の体重増加を引き起こました。

インターロイキン6を始めとした代謝障害や肝機能障害の可能性など、成人病のリスクを増加する可能性が示唆されました。

ここから考えてほしいことは、ARTは子供の精神障害などを引き起こす可能性は言及されていないことです。
(ARTにより異常児が生まれることなどは全く述べられていません)

不妊治療におけるARTは大きなメリットがあります。

しかしながら、ARTにおいて全くデメリットがないというわけではなく、子供の成人病のリスクが上昇するという可能性が報告されました。
治療方針や保険適用によりARTを検討され始めている方は、ARTが及ぼすデメリットにもついてきちんとした理解を深め慎重な判断をしたうえで治療に臨みましょう。

治療されている方や治療後方は、自身の子供が成人病のリスクをはらんでいる可能性について頭の片隅においておいてください。
精神疾患などが生じるわけではございませんので、大きな心配はされないでください

参考論文

論文タイトル;Perturbations of the hepatic proteome behind the onset of metabolic disorders in mouse offspring developed following embryo manipulation
著者;Federica Zacchini et al
雑誌名;Theriogeneology(2021年5月24日)

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