卵子の発生には脂肪が必要?―ミトコンドリア妊活
卵子には脂肪滴と呼ばれる、中性脂肪を蓄える細胞小器官があります。
脂肪滴は顕微鏡で観察することはできていたものの、初期胚発生においてどのような役割があるのかはわかっていませんでした。
しかし、今回紹介する論文において、脂肪滴が初期胚発生に必要であることが示唆されました。
なお、この記事は「Forced lipophagy reveals that lipid droplets are required for early embryonic development in mouse」を翻訳解説させていただきます。
脂肪と卵子
脂肪滴とは、細胞内の脂肪を蓄える細胞小器官です。
古くから卵子には脂肪滴が観察されていたものの、その役割は不明なままでした。
そこで、研究グループは、オートファジーと呼ばれる細胞内のリサイクル機構を利用して脂肪滴の分解を行いました。
TIP47と書かれたものが、脂肪滴のオートファジーを誘導したものになります。
左の写真は電子顕微鏡写真ですが、脂肪滴のオートファジーを誘導すると、灰色の丸い構造物が減少していることが分かります。
この灰色の丸い構造物が脂肪滴です。
この数を実際にカウントしたものが右のグラフになります。
脂肪滴のオートファジーを誘導した胚で、有意に脂肪滴の数が減少していることが分かります。
以上のことから、研究グループは、初期胚発生中の胚の脂肪滴の分解に成功したことが分かります。
胚発生と脂肪
次に、脂肪滴を減少させた胚の発生率を確認しました。
すると、脂肪滴を減少させた胚では胚盤胞期胚までの発生率が減少しているように観察されました。
(左が通常胚。右のp62と記されている方が脂肪滴を減少させた胚。)
実際にカウントしたところ、脂肪滴減少により、胚発生率は有意に減少していることが分かった。
(AA+と記されている方の棒グラフ。黒(通常胚)に比べて赤(脂肪滴減少胚)は胚発生率が減少していることが分かる。)
※尚、この画像にはAA+とAA-とありますが、これらはアミノ酸含有による発生率の違いですので、省略させていただきます。
脂肪滴の減少が胚発生率を低下させたことから、初期胚発生に脂肪が必要である可能性が示唆されました。
まとめ
今回紹介した論文では
②脂肪滴を減少させると、初期胚発生が悪化する。
の2点が示されました。
このことから、初期胚発生において脂肪が必要である可能性が示唆されました。
脂肪は細胞内においてミトコンドリアでβ酸化を受けることでエネルギーを合成します。
初期胚発生においてβ酸化を抑えると、胚発生率が低下することが明らかとなっています。
(詳しくはL-カルニチンは胚発生率を改善するーミトコンドリア妊活を参考ください)
このことからも初期胚発生において、脂肪とミトコンドリアによってエネルギーが合成されている可能性があります。
初期胚発生における脂肪の役割はあまりわかっていないため、今後研究が進んでいくことを期待します。
参考論文
画像はすべて下記論文より引用
著者;Takayuki Tatsumi 等
雑誌名;Development (2019)
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