ミトコンドリアで働くクエン酸回路(TCA回路)関連酵素は初期胚発生のZGAを活性化する

ミトコンドリアで働くTCA回路関連酵素は初期胚発生のZGAを活性化するミトコンドリア

ミトコンドリアで働くクエン酸回路(TCA回路)関連酵素は初期胚発生のZGAを活性化する

これまでの研究から初期胚発生にピルビン酸が必要であることが示唆されていましたが、どのように働いているのか詳細な研究は行われてきませんでした。

今回紹介する論文では、ピルビン酸よりも、ピルビン酸を分解する酵素によってZGAが引き起こされることが大事であることが証明されました。

なお、この論文は著名な雑誌であるCellより「Nuclear Localization of Mitochondrial TCA Cycle Enzymes as a Critical Step in Mammalian Zygotic Genome Activation」を翻訳解説させていただきます。

ピルビン酸と代謝

TCA回路の参考図

こちらがグルコースを利用した代謝経路になります。
一般的な細胞では、グルコースがピルビン酸に分解されると、ピルビン酸はアセチルCoAへと分解されます。その後、クエン酸回路(TCA回路)にてエネルギーであるATP及び酸化的リン酸化で用いられる補酵素が作られます。

これまでの研究では、受精卵を培養する培地にピルビン酸を加えないと、2細胞期で発生が止まってしまうことが分かっていました(2 cell blockと呼ばれる)。
これは、受精卵がグルコースをピルビン酸へと分解する機構がまだ発達していないためと考えられてきました。

実際に筆者たちも実験を行いました。
ピルビン酸がないと2細胞期で発生が停止

すると、ピルビン酸がない培地では2細胞期で発生が停止しました。

ZGAとは?

筆者たちは、ピルビン酸がどの時期に必要かを詳細に調べたところ、ZGAが生じる時期とかなり類似していました。

ZGAとは、Zygotic Genome Activationの略になります。
マウスにおいては2細胞期胚までは卵子に蓄えられている母性RNAによりタンパク質が作られます。
2細胞期以降、胚由来のRNAによりタンパク質が作られることをZGAといいます。
(ZGAについて詳しく知りたい方は、東京大学の青木先生のHPを参考してください)

ZGAが生じないと、タンパク質を作ることができないため、マウス胚の場合2細胞期で発生が停止してしまうことはよく知られていました。

そこで、ピルビン酸を抜いた培地において転写産物の活性等、ZGAへの影響を観察しました。
下図がその結果です
ピルビン酸はZGAに関与

A~C BrUTP:新規転写産物の取り込み ピルビン酸がないと減少
D~I Ser;RNA Pol ll リン酸化が転写に必須 ピルビン酸がないと減少
J~L SIRT1:転写産物 ピルビン酸がないと減少

以上のように、ピルビン酸がない培地で培養した胚は転写が有意に減少していました。

ピルビン酸とZGAとの関係

TCA回路においては、それぞれの炭素化合物を分解するために様々な酵素が利用されます。

PDH(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ):ピルビン酸→オキサロ酢酸
PCB(ピルビン酸カルビキシラーゼ):ピルビン酸→オキサロ酢酸
CS(クエン酸シンターゼ):オキサロ酢酸→クエン酸
Aco-2(アコニターゼ):クエン酸→イソクエン酸
IDH3A(イソクエン酸デヒドロゲナーゼ):オキサロコハク酸→αケトグルタル酸
KGDH(αケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ):αケトグルタル酸→スクシニルCoA
SCS(スクシニルCoAシンテターゼ):スクシニルCoA→コハク酸
SDHA(コハク酸デヒドロゲナーゼ):コハク酸→フマル酸
MDH-2(リンゴ酸デヒドロゲナーゼ):リンゴ酸→オキサロ酢酸

これらの酵素は基本的にはミトコンドリアで働きます。

しかしながら、これらの酵素の内、PDH、PCB、CS、Aco-2、IDH3Aが2細胞期において核に局在することが初めて分かりました。

ピルビン酸がないとこれらの酵素は核に局在することはありませんでした。

さらに、ピルビン酸がないと、ヒストン修飾が変化しないことから(ヒストン修飾の変化は、RNAの活性化に極めて重要)、核に局在すした酵素がヒストン修飾を変化させている可能性が挙げられました。

TCA回路の代謝物が重要

TCA回路の代謝物の内、αケトグルタル酸を、ピルビン酸を抜いた培地に加えたところ、胚盤胞期胚までの発生率が有意に向上しました(下図)。

αケトグルタル酸を加えると発生率向上

このとき、胚におけるATP量などを測定したところ、αケトグルタル酸を加えても、ピルビン酸がなければエネルギー量などは全く改善されませんでした。
このことから、αケトグルタル酸を添加したことによる胚発生率の改善はエネルギー以外による影響(ZGA?)ではないかと筆者たちは推察しています。

ヒト胚においても同様

筆者たちは最後に、ヒトにおける研究を行いました。

マウスの場合、ZGAは2細胞期において生じます。
しかしながら、ヒトの場合、4~8細胞期においてZGAが生じると言われています。

そこで、ヒト胚においてPDH(TCA回路において働く酵素)の免疫染色を行いました。
すると、ヒト胚におけるZGAの時期である4~8細胞期において、PDHは核に局在しました。

このことから、ヒト胚においてもマウスと同様、TCA回路の酵素がミトコンドリアから核へと移動していることが分かりました。

まとめ

ミトコンドリアで働くTCA回路関連酵素は初期胚発生のZGAを活性化する
以上の結果をまとめたものが、上図となります。

ミトコンドリアで働く酵素やTCA回路における代謝物が、核へと移動し、ZGAを活性化する可能性が示唆されました。

この論文による研究がさらに進めば、2細胞期胚の胚停止の原因が詳細に分かるだけでなく、培地の改善により、さらなる発生率の向上が期待できるかもしれません。

参考論文
画像はすべて下記論文より引用

論文タイトル;Nuclear Localization of Mitochondrial TCA Cycle Enzymes as a Critical Step in Mammalian Zygotic Genome Activation
著者;Raghavendra Nagaraj 等
雑誌名;Cell (2017)

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