脂肪幹細胞由来のミトコンドリアの追加は、老化卵子の発生率を向上させる
卵子の老化はミトコンドリアの数、機能低下と結びついています。
そのため、ミトコンドリア注入による卵子機能向上が検討されています。
今回紹介する論文では、脂肪幹細胞由来のミトコンドリアを老化卵子に注入した際の影響を確認しました。
なお、この論文は「Transfer of autologous mitochondria from adipose tissue-derived stem cells rescues oocyte quality and infertility in aged mice」を和訳しています。
ミトコンドリアを注入し、卵子の機能向上
年齢とともに卵子の機能は低下します。
これは、卵子の老化と言われており、主にミトコンドリアの数や機能が低下することにより生じると考えられています。
(詳しくはこちら)
そこで、卵子前駆細胞と呼ばれる細胞を卵子に注入することにより発生率を向上させるAUGMENT療法が開発されました。
(AUGMENT療法の詳しい解説はこちら)
しかしながら、AUGMENT療法の大きな欠点として、卵子前駆細胞がそもそもあるかどうか怪しいという問題がありました。
(AUGMENT療法の問題点に関してはこちら)
この論文の筆者たちは、卵子前駆細胞はないものと考え、卵子前駆細胞に代わる別の細胞を使って卵子機能の向上を検討しました。
そして、候補に挙がったのが脂肪幹細胞でした。
なぜ脂肪幹細胞由来のミトコンドリアなのか
一般的な細胞のミトコンドリアと異なり、卵子のミトコンドリアの形態は著しく異なっています。
これは、エネルギー産生の方法が異なるなどの理由によるものではないかと考えられています。
そして、幹細胞のミトコンドリアの形態は、卵子のミトコンドリアとかなり類似していました。
これは、エネルギー産生の方法が卵子に近いことから考えられました。
(ワ―ブルグ効果と言って、癌細胞、幹細胞、初期胚などは、エネルギー産生を酸化的リン酸化ではなく、主に解答系によって行う)
そこで、白羽の矢が立ったのが脂肪幹細胞だったのです。
ミトコンドリアを注入すると、卵子の機能は向上
老化した卵子に脂肪幹細胞由来のミトコンドリアを注入すると、ミトコンドリアコピー数は劇的に増加しました。(mito:aged;12.47±4.16)X 10^4 VS(8.38±1.99)X 10^4)(図A)
これは、ミトコンドリアをきちんと注入できていることを示しています。
また、老化した卵子で見られる、紡錘体の形成異常が、ミトコンドリア注入卵子では回復していることもわかります。
図Bに見られるように、老化卵子では、紡錘体の形成が不十分で、DNAの配置も異常を来しています。一方、ミトコンドリア注入卵子では、紡錘体がきちんと形成され、その中にDNAが正しく配置されています。(mito:aged;5/5 VS 2/9)(図B)
そして、最後に、染色体の異数性に関しても、ミトコンドリア注入卵子では回復したことが分かります。
aneuploidyが異数性の染色体です。老化卵子では18個の卵子のうち11個がaneuploidyでしたが、ミトコンドリア注入卵子ではaneuploidyの数は12個中4個だけでした。
このように、脂肪幹細胞由来のミトコンドリアを注入した卵子では、卵子機能が向上している可能性が考えられます。
ミトコンドリア注入により、胚発生率向上
次に、ミトコンドリア注入による発生率への影響を確認しました。
図Aのように、老化卵子では、胚盤胞期胚まで進行する胚が少なかったものの、ミトコンドリアを注入した卵子由来の胚では、胚盤胞期胚まで発生するものが見られました。
実際に計測すると、図Bのように、老化卵子にくらべて、ミトコンドリア卵子由来の胚の胚盤胞期胚までの発生率は有意に向上しました。(mito:aged;30%:15%)
最後に妊娠率に関しても評価を行いました。
老化卵子由来の胚の50個を、7匹のレシピエント雌に移植したところ、生まれた子供の数は1匹だったのに対して、ミトコンドリア注入卵子由来の胚51個を9匹のレシピエント雌に移植したところ、8匹の子供が生まれました。
このことから、脂肪幹細胞由来のミトコンドリアの注入は妊娠率を向上させる可能性があります。
以上のことから、脂肪幹細胞由来のミトコンドリアの卵子への注入は、胚発生率および、妊娠率を向上させる可能性が考えられます。
まとめ
老化した卵子に脂肪幹細胞由来のミトコンドリアを注入すると、卵子の機能が向上し、胚盤胞期胚までの発生率および、妊娠率が極めて向上したことが、本研究からわかりました。
現在、AUGMENT療法に関しては賛否ありますが、脂肪幹細胞由来のミトコンドリア注入が新たな老化卵子の機能向上への治療法として確立できることを祈ります。
参考論文等
著者;Zhen-Bo Wang. et al
雑誌名;Aging (2017)
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