卵子、胚盤胞期胚、精子の凍結方法とは?費用、危険性は?

不妊治療

卵子、胚盤胞期胚、精子の凍結方法とは?費用、危険性は?

不妊治療を行っていくと、卵子や胚、精子の凍結保存についての選択を考えさせられます。

凍結卵子に関しては、つい最近までは抗がん剤治療を行うがん患者の方が対象とされていましたが、近年はスポーツ選手やキャリアアップを検討している人などにまで広く広がっています。

しかしながら、「卵子、胚、精子の凍結」とはそもそもどういったものなのか、危険性はないのかなど気になる方もいらっしゃるかと思います。

ここでは、凍結保存技術を検討している方向けに、卵子、胚、精子の凍結方法、歴史、その危険性などについて説明していきます。

卵子、胚の凍結保存の歴史

1972年マウスの8細胞期胚を凍結保護物質を含むと凍結保存駅で冷却することで、胚の超低温保存に成功した。
保存胚を常温に戻しても胚は生存し、胚移植により、子供も生まれた。
1977年には卵子の凍結保存の成功例も報告されます。
1985年マウス初期胚を凍結保護物質CPAとともに急速冷却することで氷晶形成を伴わないガラス化法に成功します。
2004年にはCPA濃度低減により、生存性の高い改良ガラス化保存法も開発されました。

これらの技術により凍結保存された胚は半永久的に保存が可能となります。
超低温保存技術はウシの胚移植の広範な実施を目的で適用され、実験動物や遺伝資源保存のために利用されてきた。

そして21世紀になりヒトの不妊治療への適用が盛んにおこなわれるようになった。

国内では、
2004年10月、日本癌治療学会、日本産科婦人科学会、日本泌尿器科学会の3団体が「癌患者さんの妊娠できる能力を残すために卵子凍結は施行されるべきである」と発表。
2013年11月15日、日本生殖医学会は健康な未婚女性が将来の妊娠に備えて卵子を凍結保存しておくことを認めるガイドラインを正式決定した。これにより、加齢などの理由による卵子凍結が認められることになった。
2016年2月2日、オーク住吉産婦人科で卵子を凍結した健康女性が女の子を出産したことが報道された。

卵子、胚の凍結保存方法


※哺乳動物の発生工学参考

凍結保存法では卵子や胚は凍結保護物質で処理された後、プログラムフリーザーによって温度低下し、脱水しながら冷却される。
一方ガラス化法では高濃度の凍結保護物質で脱水したのち、液体窒素に直接入れることで急激に冷却される。

ガラス化法は冷却前に脱水するため、氷晶形成が少なく、細胞損傷も少ない
加えてガラス化法は処理ステップが少ないため非常に簡便である。

現在では、ガラス化法による凍結保存をされているクリニックが多いみたいです。

卵子、胚の凍結保存の危険性

卵子や胚の凍結保存方法では、ほとんど半永久的に保管することが可能である。
実際、アメリカのテネシー州では25年にわたり凍結された受精卵から移植された子供が出産されたことが報告されている

しかし、凍結保存にはいくつかの危険性が伴う。
前述したように氷晶形成されると、細胞骨格や細胞膜の損傷などが生じることが知られている。
また、凍結保存を行うと、遺伝子異常が生じる。
さらには、凍結保護物質に毒性があるため、凍結卵子においては、受精率の低下が生じることも知られている。

しかしながら、ICSIをはじめとした生殖発生技術でも凍結保存と同様に遺伝子異常が生じることが知られている。
基本的に卵子凍結や胚凍結の場合体外受精を行うことからも、体外受精に抵抗がない方は、遺伝子異常の問題は度外視してよいだろう。

さらに凍結卵子の受精率低下に関しては、ICSIによって回避することができる。

胚の凍結保存による有用性

胚盤胞期胚の低温保存に関しては、非常に大きな有効性が知られている。

基本的な体外受精、顕微授精の考え方としては、

一度にたくさんの卵子を排卵し、それらを受精培養したのち、質の高い胚から移植していくこととなる。

この際、余剰胚は凍結保存しておくことが基本となる。

加えて、母体の子宮環境が着床に大事になるのだが、母体環境を選べることから、凍結胚のほうが新鮮胚よりも着床率が高いことが知られている。
このことから、大手のクリニックである浅田レディースクリニックなどは、全胚凍結を基本的な治療方針として掲げている。

精子凍結保存の歴史

1949年 グリセリンを保護物質としたウシ精子の凍結保存に成功。
1952年 Polge& Rowson がドライアイスを使用した凍結保存牛精子による産子生産に成功。
1953年 Sharmanにより、ヒトの精子の凍結保存に成功。
1958年 国内においてヒトの凍結精子を用いた人工授精により子供が産まれている。

精子凍結保存も卵子や胚と同様、畜産業界で広く利用されてきた。
畜産業では、能力の高いオスウシは少ししか飼われていない。
能力の高いオスウシから採取した精子は凍結保存され、日本国内に配布され、人工授精に利用される。
以上のことから、畜産業では精子凍結保存技術はとても広く利用されている技術である。

ヒトにおいても、抗がん剤治療の人向けに精子凍結が利用された。
人工授精や体外受精では精子が必要となるため、何度もクリニックに通えない人のために、精子の凍結保存が検討されている。

しかしながら、精子は基本的には毎日採取可能な上、凍結精子よりも新鮮精子のほうが受精率は高いことから、卵子凍結ほど広がってはいない。

そのため、最も多い利用方法としては、無精子症患者から採取した精子の凍結となる。
何度も手術することは難しいため、TESEにより、採取した精子を凍結保存し、ICSIなどに利用されます。

(とはいえ、近年精子の老化に関する論文が複数発表されているため、男性も精子の凍結保存を検討してみてもいいだろう)

精子凍結保存方法

精子も卵子や胚と同様に凍結後は、ほとんど半永久的に保管することが可能である。

精子を凍結保存液に希釈したのち、液体窒素を用いて―196度まで急冷し保管する。

精子凍結保存の今後の展望

精子の凍結保存には―196度で保管する設備が必要となる。
そこで、近年では精子を凍結乾燥(フリーズドライ)することで4度(冷蔵庫の温度)で保管する技術の開発が行われている。

フリーズドライしたマウスの精子を4度で3年間保管したのち、ICSIによって子供が得られたことが京都大学の研究で発表されている。
(参考:災害に強い液体窒素不要の遺伝資源長期保存法の開発 -長期保存したフリーズドライ(真空凍結乾燥)精子からラット・マウスの作出に成功-

今後、ヒトへの応用が行われる可能性がある。

精子凍結保存の危険性

凍結精子では、新鮮精子に比べて受精率が2割ほど減少してしまうといわれています。
また、凍結精子を利用すると、凍結卵子と同様、遺伝子異常が生じる可能性があります。

しかしこれも、体外受精・顕微授精では生じる可能性があるため、一概に悪いということもできません、

卵子、胚、精子凍結保存の料金

卵子、胚の凍結保存料金は病院にもよりますが、3~5個当たり3~5万円ほどとなります。
卵子、胚の保管料金は年間2万円ほどになります。
すべて、凍結に必要なクライオトップ(大体3~5個ほど入る)辺り幾らという計算になります。

精子の凍結保存料金は>1~2万円ほどとなります。
精子の保管料金も年間1~2万円ほどになります。

まとめ

以上、卵子、胚、精子の凍結保存の歴史、凍結方法、危険性、料金などについて説明してきました。

凍結保存技術は、ヒトでの歴史こそ浅いものの、畜産業界では広く流用されている技術です。
記事にも上げたように危険性こそあるものの、これらはARTを行うと生じる危険性と同様のものとなります。

凍結保存技術について方法や危険性を理解したうえで、凍結保存技術の使用を検討していただければと思います。

また、同時に、「卵子、胚、精子の凍結保存に関する有効性」もきちんと納得して頂ければ幸いです。
特に、胚の凍結は母体環境を考慮できるため、着床率が向上するといった知見も一緒に覚えておいていただければと思います。

参考文献など
哺乳動物の発生工学

哺乳動物の発生工学 [ 佐藤 英明 ]

価格:3,740円
(2021/11/17 15:49時点)

 

牛生産の現場における精子および受精卵凍結保存技術の現状と方向性

精子の凍結保存

コメント